読み上げ CV:西原翔吾
再生
※武将視点を捏造したような物語のため、ルールと違うようでしたらすみません…
「ああ、やっと来てくれた!」
貴女の城に召募で呼ばれた時の第一声は、それだった。
私は賈詡。この大三国志の世界においては群武将である。
同じ姿の武将は何人もいる。だが、城のあるじにとってはその武将は一人しかいない。
私は、「貴女の」賈詡だ。
「ずっと待ってたんです、あなたが来てくれるのを」
ーー城のあるじは女性だった。
「あなたの姿を召募一覧で見てから、ずっと」
笑うその人の名前を、私は知らない。武将はそういうものだ。
一季も中盤を超え、終わりがけの頃。
元々別のゲームから三国志に興味を持ったというにしては、私のあるじは随分大三国志に対して勤勉だった。
目が霞むとぼやきながら画面に向かい合い、私のいる部隊や他の部隊に出撃を命じる。
激しい戦争だった。一季、あるじの所属する同盟は最後の戦争に負け、洛陽を落とす事は叶わなかった。
「…来季は、劉備の代わりに群貂蟬を入れようかしら、あなたの部隊」
右も左も分からなかったあるじも、一季の終わりには戦法の規則性も理解したらしい。
張寧と劉備と組んでいた私を、群貂蟬と共に組むことにしたようだ。
以来、七季まで私は同じ編成で起用される事になった。
二季目は洛陽を取った。三季目のあるじは随分気が短く、元々所属していた同盟を飛び出して二季目の君主の元へ向かった。全ての土地を破棄してまで。
同じ城にいる武将達と、何とも破天荒なあるじだと溜息混じりに話したのは、一年近くも昔の話だ。
四季目、五季目は似たような状況で、大きな同盟二つに挟まれて二進も三進も行かなかった。
「あそこに行くくらいなら一人で留守番する!」
…特に五季目は、随分早くに負けてしまったから、負けた相手先の同盟に移籍する事になった。あるじは荒れていた。
目を真っ赤にして、年甲斐もなく泣いていた私達のあるじを説得したのは、所属していた同盟の君主。
二季目から私のあるじが仕えている君主だ。
…よくよく考えれば、私のあるじは泣いてばかりいた気がする。
六季目、董卓勢力に行き損ねたあるじは持ち前の迷走具合を発揮して、思い切り君主に叱責された。群雄内で所属した同盟で揉めて独立し、連れて行った仲間を攻撃されては泣いていた。
「攻撃するなら私を攻撃すれば良い、他ばかり狙って、何なの」
画面越しの貴女は泣いてばかりだ。
長年やっていれば、色々なあるじがいなくなっていく。私のあるじの友人も一人減り二人減りーーその理由はそれぞれだが、精神的な負担が大きく辞めていくあるじもいる。
帰ってこないあるじを待つ武将達は、皆一様に哀しい顔をしている。
それでも私のあるじは、辞めなかった。
時に傷付き憤慨し悲嘆に暮れ、それでも尚辞めなかった。
ある時、私はあるじに問うた。不遇の時代も多いのに何故辞めないのか。
あるじは答えた。
「私は、君主を支えたい、それだけ」
長く仕える君主がいる。
変わり者の君主だけど、何故か分からないけれど人を惹きつける何かがある人だと、あるじは言った。
(であれば、我々は貴女を支えよう)
召募で呼んだ時に喜んでくれた貴女の顔を、ここにいる武将達は誰一人として忘れてはいない。
八季が始まった。
貴女は、どんな戦術を描くのか。
私は、私達はーー貴女の傍にいる。
貴女が戦場を走れと言う限り、その命に背く事はない。
それが、この大三国志における我々の役割だから。
「ーーー」
ゲームの中での貴女の名前を、我々が呼ぶ事はない。本名も呼ぶ事はない。
でも忘れないで欲しい。
地の果てまでも、私達武将はあるじと共にある。
その先にあるのが栄光だろうが、地獄だろうが、必ず、貴女を見捨てる事はない。
七季まで私を編成していた貴女も、今季は悩んでいると聞いた。当然と言えば当然だ。
今の主流部隊に私の戦法は相性が悪い。
ーー編成から外されても構わない。
貴女の武将達は、貴女に愛されている事を知っている。
私は賈詡、例え編成されなくなったとしても、貴女が喜んでくれた最初の日の事は忘れない。
いつか、群ではなく魏の所属となったらーーまた、起用してくれる日を、待っている。