読み上げ CV:西原翔吾
再生
バレンタインデーとは一先ず日本においては女性が男性にチョコレートを渡して愛の告白をする日である。
ここ最近は義理チョコどころか友チョコだの自分へのご褒美だのそんな概念が出来ていたが、この城の主人は全く気にしていなかった。
せめて本命くらい渡してやれば良いのにと武将達は思ったのだが、どうも本命を贈る相手には「誕生日とバレンタインが近くて負担になるだろうから不要」と言われたらしい。
惚気か貴様、と武将の誰かが思ったとか思わないとか。大三国志をそれなりに嗜む癖にリア充を気取るなと思った武将もいるとかいないとか。
主人ご贔屓の賈詡は主人の隣で限定で開催される召募を待っていた。さて、主人と言えば今季は結局賈詡を使いこなせなかった件で気分が落ちている。
賈詡としてはここまで大事にされるだけでありがたいので、そこまで凹まないで貰いたい気持ちだ。
「主人よ、そんなに気を落とすな」
「賈詡、わたしは情けない。貴方に来てもらってからずっと第一線で戦ってきてもらったのに」
「ここ最近の傾向として私の戦法が有効とは言い難いのだから仕方ないだろう」
「脳筋部隊も調子が悪いし、本当にどうすべきだろう。まさか彼らを足場程度にしか使えないのは…ああもうどうしたものだか」
「……」
この負の螺旋に突入した主人は面倒だ。賈詡は周りにいる武将達の冷ややかな目線を受け止めつつ首を横に振った。
周りにそんな目で見られなくとも、この主人が面倒なのは百も承知である。
何か凄まじい衝撃でもなければ、主人のこの状態は緩やかにしか改善しない。
(…限定召募に賭けてみるか)
あと少しで開催される予定の、バレンタイン限定の召募が主人の機嫌を直してくれることを賈詡は願った。
限定召募は、一回は無料で実施できる。そして、王異や妲己と言った限定武将がいる。しかしここの主人は引きが良いとは言えず、酷い時は10回全て召募を行なって、星5が一枚もないという事態に遭遇した事もある。
溜息をつきながら主人が召募を行った。
現れた武将を見て主人はたっぷり20秒彼女を見つめてから卒倒した。
「…この人大丈夫?」
「そう言ってくれるな、王異。私も今、この人が主人でこの城は大丈夫か不安なのだ」
茶色の長い髪にとんでもない大きさの胸と隠す気のない色気。直視するのは精神的にきついものがあった賈詡は思わず武将の図鑑に展示してあるような体勢で顔を半ば覆った。
今年のバレンタイン限定召募で、主人は無料で王異を引き当てたのである。
(うちの主人は悪運が強い)
そこの主人の武将達は暫くこの話で盛り上がっていたと言う。
シーズンも半ば終わりかけだったが王異の登場に主人は発奮し、彼女をどうにかして使うと息巻いて部隊構成を色々と考えていた。
(来季、私はきっと役には立てないだろうから、後は頼むぞ)
賈詡の視線に、来季既に使用が決まっている黄月英、関銀屏、王異が頷いた。
バレンタインの強運は、その主人にとって吉か凶か、当然ながらまだ誰も知らない。