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戦友へ

しゅーくりーむ @kakuka_as

ーー木々に茜色が射していた。灰色だった世界に色があることを知ったのはいつだったろう。すっかり涼しくなった風に揺られながら、私は筆を取っていた。

「拝啓、戦友よ」
言葉を選びながら、あまりに大仰な入り方に少し笑ってしまった。私は彼らと話していた時、このような堅苦しい話し方をしたことは一度もなかったはずだ。

「引退します。」
昨年5月、最後の戦友が旅立った。わずか数年足らずの付き合いであったが、遥かに永い永い時を過ごしたような気がして、その日々に握手をし、敬礼をし、願いを込めて、ただ一言、「お疲れ様」と言って見送った。
そして10月。あれからまた時が経った。もう既に、彼と交わした言葉の感触を覚えてはいない。人と人との繋がりとは儚いものだ。
私に語りかける彼はもういない、この世界に彼の眼瞼がもう二度と開くことはないと思うと、もうすぐ冬を迎える肌寒さが身にしみた。
私は彼らと交わした言葉の数々をゆっくりと思い出しながら、堪えきれない喪失感で胸がいっぱいになった。

「元気にしていますか?」
そして私は今、手紙を書いている。誰に送るでもない。送ったとしても、返事はかえって来ないだろう。
そう考えると、このような不器用な男の拙い文章でも、許してもらえるだろうか。
まるでボトルメールのように、いっその事ネットの海へ流してしまおうか。そして誰かが、この風化した想いを拾ってくれたなら、最後まで生き残ってしまった私を嗤ってくれるだろうか。

「私も歳をとったよ」
戦場を駆け抜けた日々が、遠い昔のように思われた。若輩者だ、新人のくせにと罵られたのはいつのことだっただろうか。軍規やモラルの右も左も分からないまま、初めは多くの人に迷惑を掛けながらただひた走ったのを覚えている。それが遠い昔に思えるくらいには、私も色んなものを見て、経験して、歳をとったということだろう。とても凝縮した数年間であった。

物言いがハッキリしている盟主、おおらかで人と話すのが好きな副盟主をはじめ、小規模であったが、様々な個性があり、まるで春の日差しのように朗らかで暖かな同盟であった。彼らは私に色を付けていった。世界には様々な色で形作るものがあるのだと、私に教えてくれた。もしどこかでまた巡り会ったなら、あの頃を懐古して思い出話に花を咲かせたいものだ。

私は今、まるで生き残った責務を果たすように、後進の者達に教鞭をとっている。部隊の話、戦略の話、後輩たちは何でも吸収しようと必死である。私も最初はそうだった、と思い出して、たまに微笑ましくなるものだ。これはこれで充実しているが、ああ、もう私を叱ってくれる猛者も、私自身が人として成長する機会もないのだと思うと、少し心が軋んだ。

先日、私が戦場を駆けた同盟を見かけた。だが戦友たちはもういない。私が知るあの同盟ではないだろう。きっと、私と同じように最後まで生き残った、彼らを知る誰かが歴史の続きを紡いでいるのだろう。
人は居なくなっても、気付かぬ所で、彼らがそこにいた証は確かにあるのだ。その証を示し続けて、歴史は先へ進むのだ。
人は其れを進歩と呼ぶ。私も前へ進んでいるのだろうか。今も居心地の良かったあの場所に留まっている私を、彼らが連れ出してくれているのだろうか。

「では、元気で」
そしてまた冬が来る。彼らが居なくなってから、また1年、2年と過ぎ去っていくだろう。私はまた春を迎えられるだろうか。春を迎えた時に、前へ進めたと思えるだろうか。
私も言葉を締めくくる。彼らとの思い出を、一旦閉じよう。そしてこの思い出を、また春に芽吹かせた時に、新たな気持ちを持てるように、今は歴史をひたすら紡ごう。なぜなら、歴史は今を生きている者にしか紡げないのだから。

「戦友へ」
最後に宛名を書いた。
友達ではない。彼らから多くのものを学んだ。敬意を込めて、戦友と記すべきだろう。

「ありがとう」
直接言えなかった言葉を、茜色の空に描いた彼らの笑顔へ贈った。
何となく、肌寒い風が少し暖かく感じた。