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NとHの精鋭分隊

翡翠@16(@tomochin_767)

とあるサーバーにおけるS1の終盤、司隷では二大同盟による洛陽を賭けた最終戦が行われていた。

これは、その片方の同盟のとある分隊における、戦闘の一幕。

 

同盟の規模は概ね同じだった。しかしながら実動数には大いに差があった。

大三国志は、漫画のように主人公の心が強ければ勝てるゲームではない。

 

 

悲しいかな、先ずは数の問題なのである。

プレイしている一人一人が主人公なこのゲームは、アクティブに参加する人数が多ければ多いほど強い。

そして劣勢になると、士気が落ち、同盟はチャットが静かになる。

若干押され気味の我々の同盟チャットは事実半ば死にかけていた。

 

だがこの分隊のチャットは随分賑やかだった。

「あああこの野郎ぅう!」

「まあ落ち着け」

我々の分隊は司隷の河東郡を東に進み、洛陽の北。河岸を渡るか渡らないかの地点。そこで敵同盟と一進一退の攻防を繰り返していた。

 

そこともうひとつの分隊だけが戦線を押し上げていた。

「だってNさん!私の部隊の防守全部吹っ飛んだし!」

「仕方ない、Hさんの敵討ちをしてやろうか」

 

この分隊の主戦力はNだった。

先ほども述べたように、当然N一人だけでは戦線を回せない。

Nがログインするまでの間、戦線を完全崩壊させない程度に後退させる役割を請け負っていたのはHだった。

 

「あそこに防守!」

「ヤバいの来る、免戦準備!」

「ぎゃあー!来たーー!!」

「ここ土地めくれる人いる?」

「●●さんありがとう!××さんも土地めくりありがとう!!」

 

Nがログインするまでの間、結構な率でHがチャットで喋っていた。

不思議なことに、HとNは全くリアルで面識がないのに思考過程がほぼ一緒であり、引き継ぎは殆ど困らなかったようだった。

 

そのHだが、部隊も強ければ、とにかく口が悪かった。

罵詈雑言とは言わないが、「こっち来んな」とか「さっさとくたばれ」とか「アラートうるせぇ」とか、挙句の果てには敵同盟の特定人物に渾名(悪口ではないが、とても相手にはお伝え出来ない)をつけ出したりする始末だった。

 

ただし、戦争に対する熱意は大したものだった。Nと共に目が痛いだの霞むだのぼやきながら、自分の部隊が壊滅しても尚、分隊内で指示を出し続けた。

押されても押し返す戦線に、次第に人が集まってきた。自然と士気を上げ、皆を惹きつける、それくらいの熱量が彼らにはあった。

 

「一気に行きましょうか、●分着弾合わせて行きましょう」

ある日のNの指示で戦線が動いた。

拮抗し、攻めあぐねていた洛陽北側の河岸をついに突破したのだ。分隊チャットが沸いた。

「やったーー!」

「行くぞー」

 

その時、自軍の本陣はもう深くまで攻め込まれていた。本陣が落とされるのは時間の問題ではあったけれど、当時の盟主はこの分隊ともうひとつ攻勢にある戦線をそのまま維持させた。

結果としては、ある意味良かっただろう。少なくとも、完全に葬式のような雰囲気にはならずに済んだのだから。

 

ちなみに余談だが、あれだけ荒っぽい言葉を吐き続けていたHは、生物学的には女性だった。

発覚した時は分隊内が一瞬凍った。

 

「え?Hさんって女性なの…?」

 

あれから時は流れ、9季目。

流石のHもいい加減余裕が出てきたのと、色々と反省をして言葉遣いはかなりマシになってきたとのことである。