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おばあちゃんへ

ちひろ(@chihiro2345)

『おばあちゃんへ』

 

パーーーーーーーーーーーー...

 

朝方から降り始めた雨は、葬儀が終わって外へ出るとすっかり止んでいた。

小さく晴れ間の見え始めた空にホーンの音が響く中、僕は黒塗りの車を見送る。

 

雨の音を聴きながら流した涙も、もう今は頬を伝うことは無い。

徐々に青を増やす空はまるで、もう泣かんとよ、と叱咤されているようで。

ーーーおばあちゃん、お疲れ様。

小さく呟いた。

 

今朝方おばあちゃんが亡くなったので、熊本まで帰ってきます。

 

そう幹部に伝えたのは、昨日の事だった。

葬儀やら何やらで、恐らくイン率が下がるであろうための事前報告である。

 

こんな時にでも「イン出来ない」と言わないあたり、大三国志病も既に末期であろうか。

 

ご冥福をお祈りします。

後のことは仲間に任せてゆっくりしてきて。

熊本は被災大変だろうけど、頑張って!

大切な時間を過ごしてきてね。

 

大三国志内では第3シーズンに突入したばかり。

少しでも同盟レベルを上げてスタートダッシュを順調に進めたいところであるはず。

そんな中にあっても、あたたかい言葉で送り出してくれる仲間たち。

何の憂いもなく、ゲームを離れることが出来る幸せを噛み締める。

 

思えば半年前、暗黙の了解など何も気にせずやりたいことをやろうと涼州で同盟を立ち上げたことから始まり、益州の100名規模の同盟から戦争を仕掛けられ19名で立ち向かった。

その際、関所のすぐ側に主城移転したことは通常で考えれば正気の沙汰ではないが、狙い通り相手の攻撃は自分の主城に集中し、寡兵ではあったものの全同盟員による力強い助けを受けた長い防衛を経て、五分の停戦を結ぶことに成功することとなる。

 

その後、紆余曲折あり、現在の同盟の元となる揚州の同盟に合流し、「強く楽しい同盟」というスローガンの元、仲間を増やし戦争を繰り返し、なんと13州府を達成する。

僕のそこそこ長い大三国志歴史上、初めてのことである。

 

そういえばこちらに来る時、雲の上を飛ぶ飛行機の窓からは虹のようなものが見えた。

あの綺麗な虹を登って高い所へ行くのだろうか。

幹部チャットでそんな話をしたところ、こんな返事が返ってきた。

 

「虹はペットとの待ち合わせの場所よ、虹の橋って知らない?」

 

寡聞にして知らなかったが、検索してみてその意味がわかった。

そうだ、祖母はエリーという名のマルチーズを飼っていた。

もう随分前にこの世を去ったが...そうか、あの虹の前でずっと待っていてくれたのか。

そうか。

 

おい、なんでそういうこと言うんだ、画面が見えなくなるだろ。

 

第2シーズンに突入し、順調なスタートダッシュを決め、サーバー首位同盟となる。

指揮官に任命され、個人的には常に力不足を感じながらも、攻城に戦争にと活躍する仲間たちを盛り上げる。

 

この頃から、「強い同盟とは何か」について今まで温めてきた構想を実行に移す。

「強く楽しい同盟」を信条とする盟主はじめ、幹部の後押しもあった。

勿論、意見のぶつかり合いもあったが、それはお互いが同盟をより良くしようと思うが故の衝突であり、それによるわだかまりは残らない。

 

実力もあり、運も味方につけた我が同盟は、熾烈な司隷戦を制し、2度目の洛陽を手にした。

相手の同盟は敵ではあったが、終わったあとは健闘を称え合い、新たな知り合いも仲良しも出来た。

戦後に全体チャットで罵り合うような姿が珍しくない大三国志で、このサーバーは恵まれていると感じたものだ。

 

祖母は、自宅で自身の子供たちに囲まれて、眠るように97年に及ぶ人生に幕を下ろした。

病院で亡くなる方も多い昨今、現在一人暮らしの僕としては、彼女のような逝き方に憧れてしまう。

 

「孤独死は嫌だ...結婚しようかなw」

 

盟主は僕が看取ってあげるよ。

大三国志をしながらで良かったら。

 

「それいいね、死ぬまでみんなと一緒にやりたいw」

 

嗚呼、それは楽しそうだ。

でも結婚はしてね。

 

第3シーズンに突入し、スタートダッシュの真っ只中。

バラバラだった仲間たちが、続々と再び同じ同盟の旗の元に集まり出す。

 

一緒に合流しなかった仲間がいた。

リアルの事情で引退した仲間がいた。

シーズンの狭間に呑まれて居なくなった仲間がいた。

 

でも、洛陽に力を貸してくれる人が来た。

自分の同盟を離れてこの同盟の方針に共感してくれる人がいた。

前シーズンでしのぎを削り合った人が来てくれた。

 

そして、初期から変わらない幹部のみんなは、大切な友人達だ。

まだ半年も経たないのに、もっとずっと長い間を過ごした気がする。

会ったこともないし、顔を見た事もないけれど、毎日の長い時間を共有し、嬉しいことも辛いことも自分の事のように感じあった仲間たち。

 

それは僕が大三国志で得られた最もかけがえのないもの。

ここでしか手に入らなかった宝物だ。

 

ゲームん事は、よぉ分からんばい。

 

説明してもきっと、そんな風に言ったかも知れない。

だから、とりあえず僕が今、とても満たされた毎日を過ごせていることだけ報告させてもらうね。

だからおばあちゃんも安心して、向こうでエリーとゆっくり過ごして下さい。

 

地上からは見ることの出来ないあの虹に向かって、ただ僕は冥福を祈った。