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『とある猛将と軍士の話』

ちひろ(@chihiro2345)

「だから俺ぁ、言ってやったのよ。お前ら、俺より固有戦法の発動率高いのかよ、ってな」
「そりゃあ、それだけ高い発動率を誇るのは潘鳳将軍くらいなもんでしょうね」
「そうだろ!?   ガハハハ!   アイツら、ぐうの音も出ねえでやんの」
「まあまあ、もう一杯どうですか」
「おっととと、悪ぃな」

「それで、どうして浮かない顔をなさってるんですか」
「...分かっかよ」
「そりゃ分かりますよ。しかも、まだ登用されてない軍士の私を酒房に誘うなんて、他の誰かに言えない話でもあるんですか」
「あぁ...それなんだがな...グビっ、ふう」
「ちょっとペースが早いですね。さあ、どうぞ」
「おう、すまねえ」

「いや、俺の戦法なんだがな。威力は悪くねえと思うんだ」
「ええ、単体のみとはいえ、大変なダメージを与えられる凄い戦法だと私も思いますよ」
「ガツーンとな、俺の自慢の双斧で食らわすんだけどよ。力の溜めもなく力いっぱい叩きつけるわけだから、そのあと俺自身もふらーっとなっちまってよ」
「ああ、あれそういうわけでしたか」
「ちっとの間、何も出来なくなっちまうって寸法よ」
「高火力の代償としては、なかなかですねえ」
「酒が切れた。おい、親父面倒だ、樽で持ってこい!」
「へえ、毎度!」
「程々にして下さいよ」

「で、まぁ、そのせいでほとんど戦場に連れてって貰えなくてよ...俺だって戦いてぇんだよ」
「潘鳳将軍ほどのお方でも、そんな風に悩むことがおありになるんですね」
「それどころか、俺に付けられた渾名は〝お笑い芸人〟だの〝混乱親父〟だの、ろくなもんねーんだ!   ふざけんなよ、こっちゃ笑えねーんだよ!」
「...それは」
「...笑ったら殺す」
「笑ってませんよ!?」
「まぁいい。例えば張飛の野郎なんかよ、確かに威力は俺より上だが、ずっと力溜めてるもんで、発動回数は俺より少ねーんだよ」
「ああ、張飛様の長坂之吼。あれも恐ろしい戦法ですよね」
「あんなもん使いもんにならねーって思ってたんだが、法正って奴がよ、張飛と組むとそいつがバンバン発動するようになったらしくてな」
「え、そんなことあるんですか」
「ああ、俺も耳を疑ったんだが、どうもそうらしい。そんで一躍戦場へとお呼ばれって訳よ」

「あっ、じゃあ、潘鳳将軍もその法正様に何とかしていただくってわけには」
「いやー、それが法正も俺の戦法のフォローはできねーってんで、断られちまって」
「そうなんですか...きっと色々あるんですかね」
「いや、お前、俺が法正に嫌われてるとか思ってんだろ」
「えっ...いや、別にそんなことは」
「顔に出てんだよ」
「あっ、ほらお酒来ましたよ。親父さんありがとう。ささ、おかわりをどうぞ」
「誤魔化しやがったな...ったくよ。別に嫌われてはねーからな?」
「はいはい。わかっておりますよ。ささ、どうぞどうぞ」
「おっとと、今日は酒が進むぜ」

「グビグビ...ぷはー。まぁ、今日お前を酒に誘ったのはよ、ちょっと聞きてえことがあってな」
「私なんかで良ければお答えいたしますが」
「今まで色んなやつが俺のことを助けてくれようとしてよ。だが高威力の反動か、その後のフラつきも何ともならなくてな」
「何にでも代償はあるということでしょうか」
「聞いた話じゃ、お前を見出したのはあの郭嘉だっていうじゃねえか。よく知らねえけど、アイツ超頭いいんだろ?」
「ええ、郭嘉様の智謀は素晴らしいものがありますね」
「そんな奴に見出されたお前も、なかなかのもんなんじゃねえのか?」
「えっ、いやいや、私なんてハハハ...お代は持ちませんからね?」
「いやちげーよ、奢らせようってんじゃねえから」

「じゃあ、なんで急に私を持ち上げたりなんて」
「お前、俺のこの癖、何とかできたりしねーの?」
「...はっ?   え、いや、法正様でも出来ないことが私に出来るわけないじゃないですか」
「そこをなんとか考えてみてくれよ。な!   ほら、俺ばっかり飲んでお前全然酒が進んでねーじゃねーか」
「あ、え、いや私はもう」
「まあまあまあ、飲めば頭の回りも良くなるってきっと郭嘉も言うかもだぜ?」
「そんなことは潘鳳将軍が禁酒するくらいありえないとは思いま...ああ、溢れる!   溢れますって!」
「ちょっと真面目に考えてみてくれねーかな」
「ええー、うーん」

「そう言えば、潘鳳将軍のふらついた頭をシャッキリさせる戦法が軍師達の間で話題になったことがあったような...なかったような」
「な、な、なんだと」
「あれは確か...戦法【大漢脊梁】だったっけ...うーん?」
「お、おい、それどんな戦法なんだ!」
「あー、うー、ハリセンか何かでフラついた将軍の頭叩くんだっけ?   で、同時に確率で弱体効果も解除?   盧植様や袁紹様とも連携してような気も...」
「ハリセン...お前、ホントか...それ?」
「いや、うろ覚えなんですよ!   でも一時期、そんな戦法が話題に上がってたことがあったような気はします」

「おおお、そうかそうか!   で、それ、誰が使えんだ?」
「いえ、誰も...というか、主公次第で軍師なら誰でも使えるようになるとは思いますが」
「軍師なら...誰でも...」
「...はっ!   だだだダメですよ、私は!   私は私で覚えたい戦法があって、目指すべき武将の姿というのがですね!」
「いやあ、俺はな、お前を一目見た時からこう...只者じゃねーなって思ってたんだよ!」
「待って!   待ってください!   その戦法を覚えるってことは、潰しが効かないってことで、もう将軍と常にニコイチになるしかないんです!」
「あ?   お前、俺と同じ部隊は嫌だってのか」
「えっ...と、いや、決してそういうわけではなくてですね」

「ガハハハ、そうだよな!   俺ぁ、お前が生涯をかけた戦友になるってビビっと、こう、な!?」
「いや、そ、ちょ」
「よっしゃ、主公に掛け合やいいんだな?   ちょっくら頼んでくるぜ!」
「あっ、でももう夜も更けて」
「だあーいじょうぶ、あの人ぁ、いつ寝てるか分かんねーとこあっから、多分起きてるはずだ」
「あ、あ、あ」
「んじゃ、思い立ったが吉日!   行ってくらぁ!」

「ああ...行ってしまった...私の思い描いた将来はこれで...いや、しかし、これで確実に主公と将軍の為になるのだと思えば、それもまた我が人生!   高速オセロとしてブラックに使い潰されるよりマシだと思おう!」
「あのう」
「ん?   あ、親父さん、今日はご馳走様。どうしたんだい」
「非常に言いづらいんですが」
「うん」
「お代は」
「...やられた」