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本当の狙い

うんも(@unmoiko)

ここは大三国志サーバー別研究会。今日はここで、とあるサーバーの講師をするため、俺は教室に足を踏み入れた。

教室には各州の盟主達が自分達の机で思い思いに過ごしていた。
ある者はスマホを何台も並べ、巧みに操ったり、またある者はノートに戦術などを書き記している者もいる。
恐らく隣人の州と会話している者もいるが、会話内容は辺り触りがなく、どちらも探りを入れてるように聞こえる。

「今日講師をすることになったうんもだ。みんなよろしく」

俺の挨拶なんて無かったかのように、まるで盟主達に変化はない。自分達の作業に集中しきっている。
確かにサーバーも違えば、戦況も変わってくる。俺の話を聞くより、当事者同士で話す方が有意義な時間だろう。
だがしかし、俺は講師として来ているのだ。何もしない訳にはいかない。

「とりあえず、何もしない訳には行かないので勝手に話していくぞ。質問があったらその場で発言してくれ」

そんな俺の言葉から、本日の講義である『こんな手もあったか!』が、始まった。

「それでは、本日の議題の通り、こんな手もあったか!だが、みんなの体験談を話して欲しい」

聞いているか聞いていないか分からない教室を一通り見渡し、俺はある一点で目を止めた。
あの子は確か幽州の盟主だったな。なぜ俺がその子で目を止めたかと言うと、俺が教室に入ってから今までずっとノートに何かを書いているからだ。
あのノートの中には色んなこんな手もあったか!が、隠れているに違いない。

そんな俺の眼力に気付いたのか、幽州の盟主と目があった。
俺が微笑みながら頷くと、その子は手を挙げ口を開いた。

「残念ながらその質問に答える訳にはいきません。各州が集まり、ましてや隣人の並州も居るではありませんか。そんな中で、自国の作戦を公開する訳にはいきません」

幽州盟主が苦虫を噛み潰したような表情で並州盟主を睨みながら答えた。
そんな幽州盟主の表情に気分を良くしたのか、並州盟主が食って掛かった。

「何ビビってんだ?幽州の嬢ちゃんわ。別に対した策なんてねぇーだろ。今夜22時に関所をぶち抜いてやるから首を揃えて待ってな」

並州盟主は獲物を狙う鷹のような鋭い目つきで、幽州盟主は憂懼しながらも、その目にはまだ眼光が宿っていた。
非常に面白そうな戦場である。羨ましい。

そんな幽州盟主を気にしてなのか、冀州盟主が何の言葉も発しないまま、幽州盟主を抱きしめた。間違っては行けないが、勿論同性である。

「確かに幽州盟主の言う通り、この場で策を公開する訳には行かないよな。配慮に欠けて申し訳ない。それにしても、幽州と冀州は友好関係なのか?なら、並州が攻めて来てもまだ何とかなるんじゃ無いの……か……」

俺は、言葉を最後まではっきり喋ることが出来なかった。何故なら、幽州盟主と冀州盟主が抱き合ってる中、冀州盟主が不敵に笑い、並州盟主と目で語り合ってたからだ。
そんな友好関係を青州盟主は1人、ノートに書き記したのであった。

流石に幽州盟主が可哀想だな。ここは俺が1つ策を伝授してやるか。

「この中から策が出ないのはわかった。そこで1つ、俺が体験したこんな手があったか!を話そうと思う」

こうして各自、思い思いに過ごしている教室の中、俺は1人、過去を思い出しながら語ったのであった。

あれは、シーズン1で初めて隣州に攻め込もうとした日のことだった。

『本日22時に涼州関所を突破します。全軍、部隊の配置お願いします。敵は要塞の準備に手こずっている。この好機、逃すてはない』

そんなメールが太陽もまだ昇っていない時間に盟主から盟員一同に届いた。
メールに記載していた通り関所を確認してみると、我が要塞数約40、 敵要塞数8と圧倒的な戦力差がついていた。
それもそのはず、涼州は既に並州と涼州を挟む関所で戦争中だったからだ。恐らくこちらまで手を回せないのだろう。
初めての戦争に期待と不安が入り乱れながらも、俺はその時を待った。

そして遂にその時がきた。
『関所を突破後、そのまま部隊を北に進軍し、涼州の背後につく。全軍、関所に突撃!!』
 
盟主の合図と共に、盟員の部隊が一斉に動き出した。関所突破後の方針もメールで送る辺り、ここの関所突破は確実だと疑っていないのだろう。
勿論俺も含め、盟員一同疑っていなかっただろう。何せ相手の要塞には数部隊しか入っていないのだから。

そして30分程で、何事もなく関所を突破することが出来た。この時、この同盟の士気は最高潮だった筈だ。

初めて他州の大地を踏みしめようとした時、涼州からの妨害が入った。そう、免戦だ。

別にその程度なら予想通りだった。あわよくば免戦前に進軍出来たら良かったと思う程度で、出来なかったら少し待てば良いだけ。各自、傷ついた部隊を徴兵したりして免戦明けを待った。

そして、30分……40分……と、時が流れて行き免戦50分目ぐらいで変化が訪れた。
関所前に陣取っていた敵要塞の1つが在野になったのだ。最初は意味が分からなかった。防守の面で考えても、同盟に入っていた方が守りやすいと思ったからだ。
それなら、在野要塞を起点にして攻め込めばいいだけ、時間の経過と共に、高鳴る鼓動を感じながら免戦明けを待った。

そして遂に免戦が明けた。盟員の部隊が関所前の1マスに容赦なく部隊を送り込んだ。
相手の大地に防守はなし、防守が来たとしてもこれ程の部隊を止めることは不可能。誰もが次に進む大地の選定をしていたに違いない。

それ程までの戦力差だった……その在野が動くまでは……

我が軍が侵攻していた大地目掛けて、その在野が被せてきたのだ。
その在野からしたら隣の大地、我が軍が間に合う訳もなく、呆気なく免戦を更新されてしまったのだ。

俺の脳内では、また1時間待たないと行けないのか……と同時に、次は敵同盟が免戦し、また在野が免戦の無限ループする未来が見えた。

戦力は圧倒的に有利だったはず、しかし侵攻出来ない。あれ程高かった士気も次第に下がり、盟員にも苛立ちの色が浮かんでいた。

ここで俺は一度話を区切り、教室内を見渡した。

数名は話す前と変わらず、思い思いに過ごしていたが、幽州盟主、並州盟主、冀州盟主はその場で固まっており、幽州盟主は俺と目が合うとハッ!っとし、ノートにペンを走らせた。

「ちょっとあんた!予定通り今日幽州に攻め込めるんでしょうね!?計画が台無しじゃない!!」

冀州盟主が並州盟主に詰め寄った。
冀州盟主のその言葉に、ペンを走らせていた幽州盟主は手を止め、蒼ざめた顔から一転、怒り狂った表情で冀州盟主を睨んだ。
その表情の変化に気づいてなのか、冀州盟主が「やばっ!」っと口元を押えた。

「許さない……許さない!!並州に攻め込まれてもすぐに駆けつけるって言ったじゃない!あれは嘘だったの!?ねぇ!答えて!!」

幽州盟主に先程まであった知的な印象は既にない。そこにあるのは全てを飲み込んでやろうとする攻撃的な彼女だった。

「ヒィィッ……そっ……うっ……嘘な訳ないじゃない!勿論助けに行くに決まってるでしょ!あっ……あれは、並州を油断させるために言っただけで、手を組んでる訳ないじゃない!」

頓狂な声で言い訳している辺り、信憑性ゼロだ。

「おいおい、さっきから聞いてりゃある事ない事言いやがって。冀州さんよぉーおめぇーから言ってきた事だろう。幽州の州府をやるから手を貸せってな!」

並州盟主の言葉に幽州盟主はより一層、冀州盟主を睨むのに力を入れた。

「ヒィッ!ヒィィッ……そっ……そうだわ!並州は幽州と冀州が手を組んだら苦戦すると思って、私達の友好を割こうとしているんだわ!耳を貸したらダメよ!私を信じて!!」

冀州盟主の必死の弁解も虚しく、並州盟主と冀州盟主とのメールのやり取りが開示された。
そこには並州盟主の言う通り、冀州盟主から作戦が発案されていた。

「だから言っただろ?俺は嘘はつかねぇー。嘘諸共武力でぶっ潰してやる。そこの講師かなんだか分からない奴が変な策を吹き込んだお陰で時間はかかるが必ず幽州に侵攻してやる。別に、関所は1つじゃねぇーからな」

ふふっ。いい感じに盛り上がってきたな。
俺がこの3同盟の様子を見守っていると、全く別の所から手が上がった。あれは、確か青州盟主だ。

「1つ確認します。あなたが先程仰った策ですが、確かに時間稼ぎには良いと思います。ただ1つ欠点がありませんか?」

「ほぉ〜」

特徴的な丸ぶちメガネをクィッっと上げ、俺を見据えてきた。
確かにこの作戦はすぐに攻略可能だ。当時の俺は知識も乏しかったため攻略出来なかったが、既に何年もこのゲームをやり込んでいる。今の俺ならすぐに攻略出来るだろう。しかし、初めて間もないプレイヤーがそこに気づいたのか?こいつは侮れないな。

「確かに、確かに俺が言った策は攻略可能だ。あの話の続きがその攻略だ。もし良ければ青州盟主の口から答えてくれないか?」

俺の言葉に対し、青州盟主は並州、幽州、冀州盟主を一瞥した後、口を開いた。

「簡単なことです。1時間後目掛けて、その土地に侵攻すればいいだけです」

間違いない。こいつは分かっている。
答え合わせをするかのように、青州盟主は俺の目を見据えている。
そんな中、何もわかっていない並州盟主が青州盟主を小馬鹿にするように語りかけた。

「おいおい、あんた聞いてたか?1時間経ってもまた免戦されるだけだろ。相手の方が距離が近いのに速さで勝てるわけねぇーだろ」

並州盟主の言葉に、青州盟主はため息をつき相手にするだけ無駄とばかりに軽くあしらった。

「そうですね。僕が間違っていました。すみません、忘れてください」
 
「おっ、おう……なかなか素直じゃねぇーか。期待した俺が馬鹿みたいじゃねぇーか」

安心しろ並州盟主。自分で言った通りその言葉は当てはまっている。
逆に、幽州盟主と冀州盟主はこの策の攻略に気づいていた。

幽州盟主からしたら不幸中の幸いと言うべきか、並州盟主があれで良かったのだろう。
冀州盟主はと言うと、新たな友好を築こうと青州盟主に擦り寄った。

「あんた中々頭が切れるのね。良かったらあたしと幽州に侵攻しないかしら?」

切り替えが早いと言うか乗り換えが早いと言うか、並州との策戦なんて無かったかのように青州と共戦を申し込んだ。
冀州盟主の提案に青州盟主は顎に手を置き時計をチラリと見た後、答えた。

「そろそろいい時間でしょう……そうですね。幽州への侵攻は賛成です」

「なっ!」

「やったー!!」

幽州盟主は険しい表情で、冀州盟主は喜びの表情を見せた。
しかし、青州盟主の言葉には続きがあった。

「ただ、幽州に侵攻するには冀州を通らなければ行けません。冀州の州府を頂いてから幽州に侵攻するとしましょう。今から冀州と青州の関所に要塞を建てても間に合わないと思いますよ。青州の部隊は既に冀州の関所に集まっているのですから」

冀州盟主が慌ててスマホを操作し、そしてその手からスマホを取り落とした。
落ちたスマホの画面を覗き込むと、既に冀州と青州の関所には青い矢印がいくつも飛んでいた。

「キッ…きっ…さぁーまぁぁーー!!」

これでいいだろう。
俺は青州盟主の肩に手を添え、一言「正解だ」と言い教室を後にした。

俺は教室を出てすぐ、講師とうんもと言う名を捨て1人、策を練り直した。

やはりシーズン1は面白いですね。あれ程までに荒れてくれるとは……これでシーズン2の合併サーバーが一丸となることはないでしょう。次シーズンも13州府攻略は難しくないはず。
しかし、あの青州盟主は侮れませんね。当時の私はそんな手があったか!っと言う思いだったのに、すぐに攻略を編み出すとは……いや早、私もまだまだですね。
ただ、今回は私の勝ちですね。友好関係が滅茶苦茶になった今、次シーズンではなんの脅威にもならないのですから。
勉強と思って胸に刻んで置いてください。

《こんな手もあるんですよ》

不敵な笑みを浮かべ我が主である暴君盟主の元へ帰ったのであった。

今回のようにサーバーの数だけ戦況・友好関係があるのだろう。あなたが築いている友好関係は本当の友好関係なのだろうか?もしかしたら誰かの策にハマった友好関係なのかもしれない。