読み上げ CV:西原翔吾

再生

『軍師殿、揺らがぬ』

ちひろ 2021-05-11

私の名前は郭嘉。

みんなからは軍師殿と呼ばれている。

と言っても、主に部隊・戦法相談ルームに住み着いており、特に同盟に対する戦略に関わったりしている訳では無い。

呼び名の由来はユーザー名に拠るところが大きいだろう。

 

さて、シーズンも序盤を過ぎ、涼州にある我が同盟もいよいよ勢力を拡大することとなったようで、よく分からないがどうやら隣の益州に侵攻するらしい。

ふーん、いいんじゃないの?

私はこのポジションが脅かされないならどっちでもいいよ。

 

どちらからとも無く宣戦布告を交わし、激しく戦闘を繰り返す両同盟。

既にチャットは数々の戦歴や座標で埋め尽くされ、いくさびと達は防守!防守!とオウムのように同じ言葉を繰り返す。

そんな喧騒の中にあっても、相談部屋は平和そのものである。

まったり。

 

益州というのは、多くのサーバーにおいて不思議と人口密度の高くなりがちな州である。

そして、今サーバーでも同様に、益州の大同盟はサーバー最大規模であった。

対して涼州は何となく不人気というか、私からすればこんな素敵な土地は無いと思うのだが、そこまで人が集まらないことが多い。

 

その人数の差は、互いの戦況にも如実に反映され、意気込んで攻めていったものの涼州は徐々に押されてゆく。

まだまだ余力は残していたが、明らかに不利になり始めていたそのとき、驚愕の出来事が起こる。

 

なんと、我が同盟の盟主が失踪したのだ。

 

失踪という言葉が正しいかどうかは分からないが、とにかくログインしなくなり、その主城を幹部みんなで観察していたが何日も動く気配がない。

こんな時こそ、副盟主の出番である。

 

「盟主が失踪したので、代理を務めます」

 

全体メールで律儀にお知らせする副盟主。

おいやめろ、正直に言う奴があるか。

仕事が忙しくてとか、いくらでも言いようはあるだろう。

そんなことしたら、士気が下がってほら、更に押され始めたでは無いか。

 

とはいえ、副盟主と優秀な指揮官のもと、何とか敗退するまでいかず、一進一退を繰り返す日々を送っていた。

私?

最近はみんな戦争に忙しいようで、なかなか相談にも来なくてね。

埓も無い独り言を呟くだけの毎日さ。

こんなんでも幹部なんだから、世も末だな。

 

右頬を叩かれたら左頬を叩き返すような繰り返しの日々を過ごしていた我々であったが、正直だんだん飽きてきた。

戦争大好き人間は今も戦場で武勲を稼ぎまくっているのだろうか。

チャットを覗いたが、もはや途中から見た人にはサッパリ理解出来ないほどあちこちに散らばった座標と、自慢なのか偵察なのか分からない戦歴が無駄に貼り付けられ、濁流のごとき勢いで流れてゆく。

私は、そっとチャットを閉じた。

 

もっと分隊を分けてだな、分隊ごとのチャットルームでやり取りすべきだ。

そして分隊をひとかたまりとして、それぞれ戦場に方面軍として投入すればいい。

いや、その戦歴は意味が無いから、偵察なら偵察として...おっといけない、危うく底なし沼に足を突っ込むところだったではないか。

私は相談部屋主。

そう、明鏡止水こそ我が生き様。

 

プレイスタイルは人それぞれ、これが私のスタイル。

戦争の荒波であっても、私の凪いだ毎日を乱すことは決して出来ないのであった。

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