読み上げ CV:西原翔吾

再生

「軍師殿、決断する」

ちひろ 2021-05-11

私の名前は郭嘉。

現在は征服季の疲れを新サーバーで癒しているところだ。

 

涼州の同盟に所属し、ゆるりと過ごしていたが、益州との戦争の最中に盟主が失踪するという事件が起きたばかりで、同盟内はバタついている。

幸い、副盟主が盟主を受け継いでなんとか頑張っているようだが、旗色は良くない。

まぁ、戦争にまともに参加していない私が何か言うのも違うので、成り行きを見守るのみだ。

 

今日も今日とて大三国志にログインした私は、幹部専用のチャットルームでとんでもない発言を目にすることとなる。

 

「盟主がインしてこない」

 

おい、またか。

この短期間に2回だぞ。

そんなことある?

呼びかけろ呼びかけろ、なんかその、ゲーム以外で繋がってるモノないのか。

ロビとかLINEとかあるだろ。

なに、無い?

 

仕方ない、そのうち戻るかも知れないから、呼び掛けと主城の観察は続けとけばいいんじゃない?

戦争は指揮官いるし何とでもなるだろ。

私はまったりとしておるから、みんな宜しく。

 

「代理を立てねば」

「副盟主に代理を」

「待て、副盟主?」

「副盟主、誰だ?」

「いないじゃん!」

「禅譲したまま?」

 

幹部ルームでは幹部がこれからについて話し合っていた。

しかし、どうやら前回の盟主失踪の際に副盟主が盟主へと繰り上がったわけだが、戦争でバタバタしていたせいか、新たな副盟主を任命し忘れていたようである。

まぁ、そんなこともあろう。

こういう場合はどうなるんだったか。

眠くて頭が働かんな。

 

「お、俺、聞いたことある...盟主が3日間ログインしなかった場合、副盟主に自動禅譲されるんだけど」

「そうだよな、副盟主いない場合どうなるの?」

「それが...一番勢力値が高い人に移るって」

「そうなの?一番勢力値が高いのって...」

 

「軍師だ」

「軍師か」

「軍師殿だね」

 

ごめん、ちょっと寝落ちしてた。

呼んだ?

あ、軍師ってのは私の異名である。

いやあ、軍師らしいことなんて何もしてないんだが、みんなの部隊編成のアドバイスしてるうちに自然とそう呼ばれるようになってしまった。

否定するのも面倒なのでそのままにしてはいるが...どうしたの?

 

「軍師、盟主帰ってこないじゃない?」

 

うんまぁ、帰ってこないと決まった訳では無いがな。

 

「自動禅譲機能ってあるしょ?」

 

ああ、3日ログインしないと、ってやつな。

 

「このままだと、軍師が盟主なるの」

 

ふむ、なるほどね。

理解した。

 

...は?

 

実は、私は勢力値が非常に高い。

他のみんなが戦争に精を出している時、私は相談部屋でまったりしながら、あまりにも暇なので手慰みに土地を漁っていたのだ。

 

待て待て待て、まさかとは思うが君ら、私を盟主にするつもりか?

いや...ああ、なるほど、一旦そういうわけで盟主になるから、その後、然るべき人材に禅譲して欲しいということだな。

今度こそ理解したぞ。

 

「私は軍師が盟主で異論ありません」

 

ん?

何を言ってるの?

 

「俺も別に構わないよ」

「僕もいんじゃないかと思うけど」

 

き、貴様ら...私のまったりライフを脅かそうというつもりか!

それ以上言ってみろ、息の根が止まると思え!

主に私のな!

 

「いや待て、勢力値じゃねえぞ」

 

おおっ、指揮官殿、なにか発見したかね?

盟主やりたいの?

ん?

 

「禅譲順は役職順らしいぞ。だから、次は指揮官である俺になるな」

 

うむ、順当であるな。

よし、これで問題は解決した。

 

「でもよ、俺は盟主やるつもりはねえよ」

 

え?

 

「俺さ、最初に盟主が居なくなった時からずっと考えてたんだ。盟主をやる人間に最も必要なものは何だろうってな」

「必要なもの...外交力?」

「カリスマじゃない?」

「部隊の強さとかですか?」

「ああ、確かにそれもあるかもしれねえ。でもな、俺が考える盟主の資質ってのは...“いつも居ること”だと思うんだよ」

 

...ふむ?

何が言いたいのだ。

 

「みんな思い出してみろ、困った時や相談事がある時に“あの人に聞いてみよう”、“あの人ならすぐに答えをくれる”って思えるのは誰なのか」

「...僕は...軍師殿かな」

「私も軍師殿に相談してました」

「うん、軍師ならいつもいるもん...あっ」

 

「そうだ、盟主ってのはな、“いつもいる”、“いなくならない”ってのが一番大事だと思うんだ」

「確かになー、どんなに能力があってもいなくなったりインしてなかったら意味無いもんな」

「今回は仕方ないから、俺が一応盟主を一旦引き受ける。そして軍師に禅譲するつもりだ」

 

気は確かかな?

私は戦争にもほとんど参加しておらんし、部隊編成相談ルーム専属で同盟チャットにすら顔を出していないんだが。

 

「なあ軍師、戦争なら指揮官の俺や幹部が頑張る。外交だってみんなで話し合って外交官を立てる。迷惑はかけないようにする。だから、盟主やってくんないかな、頼むよ!」

 

そ、そういう言い方をされると...断りにくいな。

 

「そうだよ、軍師殿は盟主として居てくれるだけで良いんだ。役立たずでも構わないから!」

「うんうん、仕事出来ない盟主でもみんなで支えるよ」

「いつも通り引きこもってていいよ!」

 

...君ら、なにげに酷いこと言ってるの気付いてる?

 

「軍師殿は今まで通りでいいんです。だから、私達からもお願いします!」

 

ううむ...こういう流れになってしまうと、もはや断るわけにはいかんか。

 

分かった。

ただし、いくら私がまったり志向だとしても、盟主をやるからにはボーッとただ見ているだけというわけにはいかない。

戦況を見て考えていたこともあるし、私がどのような決断を下したとしても...みんな、後悔するなよ。

 

「もちろん!働いてくれるんなら大歓迎です!」

「俺たちは軍師を選んだ時点で全てを託したんだ、後悔なんてしねえよ。それだけの信頼がある...いいや、もともとあったんだと思ってくれていい」

 

言ってくれるじゃないか、ちょっと感動した。

よし、久々に盟主業、やってやろうではないか!

 

人生は諸行無常。

全くやる気がないのに幹部になったりするし、成り行きで盟主になることだってある。

そこで荷の重さに逃げ出すか、受け入れて全力で頑張ってみるかは、その人次第。

 

しかし、なんでもやってみる、関わってみる、頑張ってみるというのは、リアルでもゲームでも同じで、そこにしか生まれないドラマがきっとあると思うのだ。

 

人と人が触れ合うこの大三国志で、今サーバーでもまた、新たなドラマを作りにいこう。

仲間たちと共に。

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